しんくろの勉強置き場

勉強したこと置き場です。世の中,知識は共有したほうが良いよね。勉強する気がなくなったら止まるかも。

代表的な抗精神病薬の種類とその機序・副作用

抗精神病薬は精神神経学で最も重要な薬物の一群であるが,薬理の複雑さゆえに初学者には使い分けを理解するのが難しい。そこで,精神科臨床でも最初の一週間に名前を聞きそうな代表的な抗精神病薬を挙げ,長所・短所を簡単にまとめておく。

 

1)前提知識とか ―抗精神病薬の基礎知識と,その薬理学的理解の難しさ―

 ここでは「カッツング薬理学エッセンシャル」や「現代臨床精神医学」などに基づいて,若干マニアックな知識をまとめておく。

1-a 抗精神病薬の種類

 抗精神病薬はそもそも統合失調症だけの薬ではない。国試的に重要,かつ精神科医以外の臨床医がよく関わるのはダントツでせん妄だろうが,他にも双極性障害,精神病性うつ病等に利用できる。一般に学生は抗精神病薬の役目を「精神疾患といえば統合失調症だから,抗精神病薬統合失調症」と覚えるらしいが,これは割と間違いに近いこじつけで,より正確には「抗精神病薬は精神病症状に対する薬で,その代表が統合失調症」ということになる。抗精神病薬Antipsychoticsというだけあって,様々な精神病圏の疾患に対して用いることができる,というわけだ。

 話がそれたが,抗精神病薬の分類は①定型抗精神病薬と②非定型抗精神病薬に分かれる。定型抗精神病薬は,構造的に数種類に分かれるらしいが,臨床的には

①-1: フェノチアジン系(クロルプロマジンなど)

①-2: ブチロフェノン類(主にハロペリドール

①-3: スルピリド

だと思っておけばいいのではないだろうか……。というか,浅学な僕程度だと,実臨床ではハロペリドールしか聞いたことがない。そして非定型抗精神病薬については,

②-1: MARTAつまりクロザピンとその子孫(オランザピン,クエチアピン,アセナピン,ゾテピンなどなどなど)

②-2: SDAつまりリスペリドン類縁薬物(リスペリドン,ブロナンセリンなど)

②-3:第三世代,つまりアリピプラゾールと兄弟たち

と考えてよいと思う。結局まとめると,抗精神病薬は「ハロペリドール」「アピン系」「リスペリドン類・ブロナンセリン」「アリピプラゾール類」と覚えればひとまずよいだろう。ただし,抗うつ薬のNaSSAという薬物の一群にはミルタザピン(商標名:リフレックス,レメロン)を代表選手とする「アピン系」の名前の薬がある。

1-b 抗精神病薬の薬理

 国試的な薬理のレベルで言えば「抗精神病薬といえばD2ブロッカー」ということになっているが,これはやや誤解を生む表現だと思う。というのも,統合失調症ドパミン仮説はあくまで現在も仮説の域を出ず,ドパミン拮抗作用が強い薬ほど使用頻度が高いわけでもないというのと,現代の薬には事実上D2ブロッカーでない薬物やD2パーシャルアゴニストが含まれるというのがある。「定型抗精神病薬はD2ブロッカー,非定型抗精神病薬はもっと色々」というまとめのほうが正確で良い。

 これについて,理解の助けになる逸話がある。非定型抗精神病薬はクロザピンをモデルにして誕生したという話はオタク界隈で有名な話だが,クロザピンは強力な抗精神病薬であるにも関わらず,D2受容体拮抗作用をほとんどもたないと言われている。また,ヤンセンファーマはリスペリドンを発明したとき,クロザピンが5-HT拮抗薬であることを取り入れたとされるが,このクロザピンとリスペリドンはいずれも統合失調症陰性症状に有効である。まとめると,ドパミン拮抗作用は陽性症状に効きやすいが,それに加えてセロトニン拮抗作用があると陰性症状にも効きやすくなる。ただし一概に比例関係にあるわけでもない」という方が,抗精神病薬を理解する上では正確であり,役に立つと思われる(だからこそ個別に薬を列挙するのが重要だと思った!)。

 ちなみに,この逸話からわかるように,少なくとも教科書上は抗精神病薬は陽性症状にしか効かない」の時代は終わっているので,この誤解も解いておきたい。細かく言えば,5-HT2A受容体への親和性がD2受容体への親和性より高い(S/D比>1)場合には陰性症状に奏功するらしい。

 そして初学者が何より注意すべきなのが,ほとんどの薬物は作用する受容体が単一ではない(興味がある人は各薬物の受容体遮断作用の表を探してみるとよい)。そもそも統合失調症自体が薬理学的に一様か怪しい,つまり複数の疾患単位の混合かもしれないので,一つの神経伝達物質に原因を求めるのは無理があるのかもしれない。神経伝達物質というひとつの物差しでものの作用が測れれば単純でありがたいが,それに対応する精神状態と生理活性物質の比例関係は現状ほぼ未発見である。この分野の生理学の進展が待たれる。

1-c 抗精神病薬の臨床知識

 最後に臨床的な基礎知識としては副作用や禁忌が重要だろう。特に中枢神経系に対する薬物は薬理学的に自明でない副作用が出やすいので,まとめて覚える必要がある。抗精神病薬で一般に見られるものとしては錐体外路症状と過鎮静が有名である。もちろんドパミンブロッカーなので無月経や乳汁分泌・女性化乳房などの内分泌症状もあるから,プロラクチノーマの治療と対で覚えたい。他にも,糖尿・食欲亢進・血糖上昇が有名な他,QT延長やイレウスなどが出やすいとされている。詳しくは下の各薬物の記述や添付文書を見るべきだが,専門家でなければ「副作用は錐体外路症状・過鎮静・高プロラクチン・高血糖でいいだろう。禁忌はそれぞれの薬で色々あるが,多くに共通する代表的な禁忌はパーキンソン病と糖尿病だ。なお,一般臨床科での他の使い方としては,「せん妄対策」「制吐剤」を覚えておくとよいと思う。というか,せん妄と制吐剤を両方入れるべき状況は(抗がん剤治療などで)多そうなので,多剤投与や相乗効果による副作用を避けるために,これらの薬が抗精神病薬に属している可能性を頭の片隅に置いておくべきだと思う。他にも精神神経疾患としては特に双極性障害と相性がいいとされている。この点も理由が知りたいので今度ぜひ調べたいと思う。

 

2) 代表的な抗精神病薬一覧

ここではせん妄などに用いる薬物は省き,精神科の臨床で最もよく聞くものを挙げた。なかでも薬理学の歴史的には「クロルプロマジン」「クロザピン」「アリピプラゾール」の3つ,実臨床的には「ハロペリドール」「オランザピン」「リスペリドン」「アリピプラゾール」の4つが重要だと思う。

クロルプロマジン(商標名:ウインタミンコンタミン)

作用:ドパミン拮抗(,ムスカリン性コリン受容体拮抗,α受容体拮抗,ヒスタミン受容体拮抗等)

備考:事実上の世界最初の抗精神病薬なので,今頃使われていないと思うが挙げておいた。もともと抗ヒスタミン薬として開発されたという話は有名。ややどうでもいいが,ここら辺の薬物はα遮断作用があるのでアドレナリンと併用するとβ作用有意になって血圧が低下するので禁忌らしい。

ハロペリドール(商標名:セレネース,ハロマンス)

作用:D2受容体拮抗(,α1受容体拮抗,5-HT2A受容体拮抗)

長所:フェノチアジン系よりも力価が高いことで,定型抗精神病薬の代表として歴史的に有名。抗幻覚妄想作用が強く,鎮静作用がクロルプロマジンに比べて少ない。

短所:心筋障害作用があり心不全患者には禁忌。フェノチアジン系に比べ錐体外路症状が出やすいらしく,パーキンソン病患者に禁忌。妊婦禁忌。また他の副作用として体重増加,糖尿や女性化乳房など内分泌症状が見られる(だいたいどれもそうなので,以後は基本的に省略)。

備考:臨床の浅い知識ではせん妄に使う薬として有名な気がするが,ネットで調べると「鎮静作用はリスペリドンが同等に強いし経口があるのでこちらを使いましょう」とそこら中に書いてある。リスペリドン使いましょう。

スルピリド:(商標名:ドグマチールミラドール等)

作用:D2受容体拮抗

長所:抗精神病作用に加え,抗うつ作用があるとされている。また副作用(鎮静・錐体外路症状)が少ない。特に鎮静作用がないことが有名。ノルアドレナリン遮断作用もないらしい。食欲増進作用がある。

短所: 逆にアドレナリン遮断作用がないので褐色細胞種患者への投与は昇圧を招き禁忌らしい。またプロラクチノーマには禁忌(他も全部そうではないのか……?)。

備考:胃十二指腸潰瘍にも使えるらしい。食欲不振の治療薬としても利用可能らしい。

・クロザピン(商標名:クロザリル)

作用:D1/4受容体拮抗,5-HT2受容体拮抗,α1受容体拮抗など。D2受容体拮抗作用はほぼない。

長所:陰性症状を改善する。治療反応が乏しい時の最後の手段として有名。

短所:1-2%の割合で無顆粒球症を起こすので,2種類以上の薬物に治療抵抗性の場合に限って利用可,様々なモニタリングのもと慎重投与。当然こんな調子だから肝障害や腎障害など禁忌が多すぎる。

備考:前述の通り最初の非定型抗精神病薬である。

・オランザピン(商標名:ジプレキサ

作用:主にD2と5-HT2A拮抗だが,他にも色々。

長所: 今や統合失調症に対する第一選択薬として有名。陰性症状にも有効。錐体外路性副作用が少ないとされている。双極性障害も適応。制吐剤としても使える。

短所: 血糖値が上がる。1%で高血糖。糖尿病と糖尿病既往の患者には禁忌。そうでなくてもDKA等を起こさないように注意。体重増加も有名。α遮断作用も強いのでアドレナリン併用禁忌。

備考:このような非選択的拮抗薬はMulti-Acting Receptor Targeted Agent(MARTA)と呼ばれる。細かいけど,イレウスが副作用にあるのに制吐作用があるのは怖いなと思った。

・クエチアピン(商標名:セロクエル

作用:本当に色々。作用がクロザピンに近いらしい。

長所: 今や代表的な抗精神病薬として有名。陰性症状にも有効。

短所: これも血糖値が上がるので糖尿病と糖尿病既往の患者には禁忌。α遮断作用も強いのでアドレナリン併用禁忌。

備考:MARTAの一種。MARTAは他にも現役の薬が色々あるが,ここについては薬理から離れて臨床ありきの話になってしまうので触れない。

・リスペリドン(商標名:リスパダール

作用:5-HT受容体拮抗(主に2A),わずかにD2受容体拮抗

長所: オランザピンとともに統合失調症の第一選択薬。陰性症状にも有効。自閉症スペクトラム障害に伴う易刺激性にも適応がある。

短所: 血糖値の上昇や糖尿病との相関が言われている。ここらへんは副作用がほとんど同じ。

備考:serotonin-dopamine antagonist(SDA)の代表格。ハロペリドールよりも統合失調症再発防止効果が「高い」という試験実績がある優秀な薬物である。

・パリペリドン(商標名:インヴェガ

備考:リスペリドンの活性代謝産物で,徐放剤である。投与が少なくて済むらしい。統合失調症などは長期戦になりやすいく,拒薬なども他の薬に比べて多い傾向にあるからか,動態を工夫した薬はけっこう多い。

・ブロナンセリン(商標名:ロナセン

作用:主にD2受容体拮抗。5-HT2A受容体拮抗作用もある。

長所: 薬力学から予想される通り,陽性症状への効果が高いとされる

短所: これも薬力学から予想される通り,陰性症状への効果が薄い

備考:SDAの一種だが,D2ブロッカーとしての機能が高まっている薬。

・アリピプラゾール(商標名:エビリファイ

作用:D2受容体パーシャルアゴニスト,5-HT1A受容体パーシャルアゴニスト

長所:パーシャルアゴニストなので錐体外路症状が比較的少ないらしい。双極性障害の躁症状にも有効。他の疾患にも承認が増えている。

短所:なぜか薬としては全然違うのに副作用類は大体上と似ている。パーキンソン症状が少ない代わりにアカシジアが多いらしい。詳しくないけど,力価は定型薬とかより低いのじゃないかしら……?

備考:教科書に「第三世代」とか書かれている面白い薬。D2Rに対する固有活性は20-30%程度らしい。ドパミン系のうち中脳辺縁系の過活動,中脳皮質系の低活動がそれぞれ統合失調症の陽性症状・陰性症状を作っているという噂があるらしく,いい感じにバッファしてくれるパーシャルアゴニストに期待が寄せられているとのこと。ちなみに,ブレクスピプラゾール(レキサルティ)という弟分も存在するらしいが,詳しい違いはよくわからないので一旦放っておく。