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神経内科学疾患メモ置き場

 神経筋結合部疾患

重症筋無力症(MG)

概要:日内変動のある全身の筋力低下と易疲労感を特徴とする,現在でも予後が比較的不良な神経筋結合部疾患である。ステロイドと免疫抑制薬により治療する。

疫学:我が国には2万人程度患者が存在する。AChR抗体陽性例が有名だが,他にMuSK抗体陽性例(5%),Lrp4抗体陽性例(少数),抗体陰性例(10%程度)もあるので診断の際は注意する。若干女性に多いがそこまで偏りはなく,せいぜい1:1.7程度である。30-50代女性の罹患例が有名だが,男性は50-60歳とやや高齢にピークがあるうえ,2峰性を示し5歳未満の幼児にもやや小さいピークがある。AChR抗体陽性MGは胸腺腫を合併しやすく,その病態と関連するが,その仕組みの詳細は明らかではない。MuSK抗体陽性例では胸腺腫の合併は増えない。

病態生理:抗AChR抗体は,ニコチン受容体αサブユニットに結合して補体系を活性化ことで,運動終板のAChRおよび他のタンパクを減少させる。他の抗体は病原性こそ証明されているものの,詳細な病態形成は不明である。抗MuSK抗体はIgG4サブクラスであるため補体活性化能はなく,終板の破壊像も観察されない。

症状:全身の筋力低下を主体とする。この症状は運動後や夕方のほうが顕著に見られ(易疲労性),休息により回復する。AChR抗体陽性例では外眼筋障害の陽性率が顕著に高く,眼瞼下垂や複視が特徴的である。MuSK抗体陽性例は嚥下障害が多いが,臨床兆候から抗体を鑑別することは困難である。最も致命的なのは10人に1人程度の割合で発生するクリーゼで,ストレスや感染,妊娠などにより急速に増悪し,呼吸困難を呈する病態である。合併症としては高齢者で胸腺腫が20-30%で見られる他,Basedow病(数%と多い)や他の自己免疫疾患が見られることがある。

検査:テンシロン試験では,即効性のあるコリンエステラーゼ阻害薬エドロホニウムを静注し,症状が回復するか調べる。クリーゼの筋無力性・コリン作動性の鑑別にも役立つが,実際には鑑別困難なことが多い。筋電図では,3Hz程度の低頻度刺激に対する応答の振幅が4-5発のうちに減弱するwaning現象が特徴的であり,プレシナプス終末側の病態であるLambert-Eaton症候群との鑑別となる。最終的にはAChR抗体とMuSK抗体の測定が必要だが,陰性例もある。AChR抗体の抗体価は重症度を反映しない。また,診断後は胸腺腫のスクリーニングを行う。

治療:胸腺腫合併時は切除が最優先である。内科的治療としてはステロイドと免疫抑制薬(タクロリムスとシクロスポリン)が予後改善のために最重要である。他に血漿交換やIVIg等が適応であるため,複合的に駆使して短期の寛解を目指す。コリンエステラーゼ阻害薬(ピリドスチグミン等)は過渡的に用い,最終的に中止する。これはコリンエステラーゼ阻害薬がほとんど長期的予後を改善しないためである。その他,抗菌薬等に禁忌の薬剤が多いため注意する。筋無力性・コリン作動性にかかわらずクリーゼではコリンエステラーゼ阻害薬を中止し,挿管と人工呼吸器管理を開始する。

鑑別疾患:①Lambert-Eaton筋無力症候群LEMS:半数以上が小細胞肺癌合併例であり,カルシウムチャネル(P/Q-type VGCC)を腫瘍が産生するために自己抗体ができて神経筋結合部が障害される病態である。50-60代男性に多いのでこの年代のMG疑い例では注意を要する。頻度はMGの1/100程度で,眼症状は少なく,自律神経障害や小脳失調を合併しやすい。癌合併例は免疫抑制を行うべきでなく,癌の治療が最優先である。癌非合併例の治療はMGに似る。

関連するページ:ニコチン受容体の分子生理